視覚障害者の歩行における道路の分類としては、「歩車道の区別の有無」、「対面通行と一方通行の区別」、「交通量の多寡」、「道幅の広狭」、「視覚障害者誘導用ブロック(「点字ブロック」)の有無」などが重要な要素となります。細かく見れば、道路の片側のみに歩車道の区別のある場合や、歩車道の区別はないが「点字ブロック」が敷設されている場合など、さまざまなケースが存在します。いずれにしても、これらの要素と対象者の基礎的能力および歩行能力とを考慮しながら、歩行ルートや歩行方法を検討していく必要があります。
 とりわけ交差点は、駅のプラットホーム上とともに、最も危険性が高い場所です。かつて三宅精一氏が「点字ブロック」を発明したのも、道路を横断しようとする視覚障害者が車にひかれそうになる場面を目撃したことが契機でした。1967年に岡山市で初めて敷設された「点字ブロック」の形状は点状のみでしたが、後に誘導用の線状ブロックも開発されました。「点字ブロック」の敷設されている交差点においては、これらの点状(警告用)ブロックと線状(誘導用)ブロックがガイドラインに準じて適切に敷設されていることが、視覚障害者にとっては重要です。
 しかし、線状ブロックの誘導方向が横断歩道の対岸ではなく交差点の中央方向であったり、白杖による触察では「点字ブロック」と歩道舗装との違い(触覚的コントラスト)が分かりにくかったりするために、「点字ブロック」を有効に使えないケースも見られます。こうした事例については、例えば視覚障害者誘導用道路横断帯(エスコートゾーン)の敷設なども効果的ですが、さらなる安全な交差点横断を保障するためには、視覚障害者用付加装置(音響式信号機)の普及も望まれるところです。
 視覚障害者用付加装置の誘導音は、初めはメロディ式が、次いで同種鳴き交わし方式が普及しましたが、警察庁の通達「視覚障害者用付加装置に関する設置・運用指針の制定について」(2003年、2019年に新通達)では、今後は異種鳴き交わし方式に統一するものと定められています。また、歩行者信号が青に変わったときのみに音声やチャイム等で知らせる形式のもの(音響式歩行者誘導付加装置)や、最近では白杖に付けられた反射テープを検出して歩行者信号の状態等を音声で案内する歩行者支援装置(歩行者等支援情報通信システム、PICS)なども普及しつつあります。
 2019年3月末現在、全国では視覚障害者用付加装置が約20,000機、音響式歩行者誘導付加装置が約3,500機設置されています。しかし、地域への配慮から音響が止められる早朝深夜帯に、視覚障害者が赤信号に気づかずに横断して事故にあう事例もあります。歩行時間延長信号機用小型送信機(いわゆる「シグナルエイド」)の活用なども有効な手立てですが、こうした技術の普及とともに、社会への啓発を進めていくことも重要です。