足を骨折した、半身がマヒした時のことを想像しませんか。これは動かさないことで弱くなった筋肉をもとの状態になるよう、また脳の病気によって動かすという命令がうまく伝わらないことを反復して練習することによって動けるように、筋力トレーニングや歩行訓練によって、以前の状態に戻す(リハビリテーション)ことをイメージされていると思います。
では視覚障害者・児の歩行訓練とは、見えにくくなった目を見えるようにすること?
人は歩くだけではなく、目的の場所があります。その場所へ行くために足があり、進む、止まる、曲がるなどをして移動していきます。その時に必ず、安全なのか、安心して歩けるのか、どういった方法で行くのか、周りの支援や社会の環境はどうなのか、そして当たり前ですが、皆すべて異なり、同じ方法で歩いてはいないということです。
見る(視覚)以外の感覚というと、聞く(聴覚)、触る(触覚)や匂う(嗅覚)などの感覚、交通ルールや街の環境を知っている知識、歩くという運動、様々な経験(社会性)、そして、移動する安心などを基本として、手足の動かし方や白杖(はくじょう)の使い方、移動する目的地などの地図、移動に伴う周囲の状況、歩くための身体の動かし方、そして何よりその移動にかかわる様々な情報がどのくらい理解(取得)できるのかによって歩くことができます。
さらには生まれながらに見えにくい障害を持った方と、人生の途中で病気や事故などで見えにくくなった方でも大きく異なります。もちろん見えにくい状況の年数でも、年齢によっても様々です。同じ年代でも、例えばタクシーの運転手のかたとIT企業で働いていた方では、経験も全く異なります。道路や街のお店などの知識はおそらくタクシー運転手のほうがIT企業の方より知っていると思います。あの道は時間によって混んでいる、あそこのお店は地元の方に評判、などなど。
見えない、見えにくいということで、できないということではなく、練習を重ねることによって、安心して安全に、もちろん楽しく歩行していただきたいというのが、視覚障害の歩行訓練です。